豊穣の角の覚書

マンガのお仕事をしていた頃 &今の暮らし あれこれ

困ったアシスタント

アシスタント業は大部屋入院生活に通じるところがある

24時間 他人がそばにいて

基本的に外に出られない 

自分の都合は後回し

 

漫画家になって数年経った頃 人生初の入院生活を体験した時にまず思ったのがそれだった

 

その大きな大学病院では見舞客を装って入り込む泥棒の被害が相次いでいて 連日、院内放送での注意喚起が行われていた

 

待合室で外来患者や付き添いの人の荷物を狙う置き引き

見舞客のふりをして病棟に入り 検査などで不在のベッドを見つけてはテレビカードを抜き取る手口

宿直の医師が仮眠室に置いてあった上着から財布を抜かれたこともあった

 

大勢の人が出入りする場所は紛れ込むのも簡単だ

 

そして赤の他人 場合によっては初対面の人間同士が家族のように共同生活を送るまんがの現場でも

アシスタントをしていた当時 一度だけそういう噂を聞くことがあった

 

みんなが寝静まるのを待って財布や貴重品をかき集めて逃げ出すアシスタントがいる と

時代劇に出てくる枕探しのようなものだ

 

仕事中のアシスタントはお小遣いくらいしか現金は持たないが 深夜に仕事が終わってアシスタント料を受け取ったあと 電車が動くまで仮眠を取っている時なら実入りもいい

 

本名かどうかは知らないが同じ名前で数件の仕事先を渡り歩いて悪事を繰り返していたようだ

 

アシスタントは割と世間が狭く、複数の先生の仕事場を掛け持ちしている人も多かったので、これに限らず噂は広まりやすかった

漫画家や編集部にも知れ渡って、皆が警戒するようになり、やがて被害はおさまったようだった

 

当人は捕まったのか 盗られたお金は戻ったのかは聞いていない

 

それにしても

こういうと語弊があるが大病院の外来時間帯や大きな駅など もっとたくさんの人が集まる場所に紛れ込む方が楽だろうに

 

始めはアシスタントだけに従事していて、そのうちに無防備な同僚から金品を掠め取ることを思いついたのかもしれないが 顔を覚えられるリスクは大きい

 

マスクでもして顔を隠すのも共同生活の中で限界がある

 

その人が漫画家としてデビューできたとは考えにくいが、もし案外売れっ子になったとして 過去を知っているアシスタントがやってくることもあるかもしれない

 

ちょっとしたサスペンスが書けそうだ