「もしもし」
地を這うような低い声 無愛想な応答
作業の進み具合を探ってくる編集者に対して張った予防線だ
「まだそんなことしてるんですか⁉︎」
呆れ半分 懐かしさ半分で笑って問えば
「ああ!」 なんだ君か と声のトーンが跳ね上がった
一転して早口で話す陽気な声
話の内容は何も伝わってこなかったが楽しそうだ
そこで目が覚めた
夢の中で 彼岸に電話をかけていたのだ
思い返して 私は少し安堵した
前触れもなく 手がけていた原稿もそのままにして逝ってしまったのだ
心残りや未練があったのではないかと心配だったが
どうやら向こうに行っても描いているらしい